第1章 コンピューターの基本構造 1.1 電気とスイッチ―0と1の世界

コンピューターの前に座り、キーボードを叩いて文字を入力したり、画面をタップして動画を再生したりするとき、私たちは目の前の画面に広がる色鮮やかな世界に夢中になります。しかし、そのディスプレイの奥底、精密な基盤のさらに先にあるミクロの世界で動いているのは、驚くほど単純な「電気のオンとオフ」の連続です。

コンピューターの根本にあるのは、紛れもなく「電気」という物理現象です。

人間は、言葉、色、音、形など、無数の複雑な情報をそのまま認識できます。しかし、機械であるコンピューターにはそれができません。そこでコンピューターは、すべての情報をたった2つの状態だけで表現するという、究極にシンプルな方法を採用しました。

  • 電気が流れている状態(電圧が高い状態)=「1」
  • 電気が流れていない状態(電圧が低い状態)=「0」

この「0」と「1」の2つの数字だけであらゆる情報を表現する仕組みを「デジタル表現(あるいは2進法)」と呼びます。私たちが普段使っている「赤」「青」といった色の情報も、「ド」「レ」「ミ」という音の響きも、AIが読み込む膨大なテキストデータも、すべてはこの「0と1の膨大な並び」に変換されて処理されています。

トランジスタという名の「電子のスイッチ」

では、この「0」と「1」の状態を、コンピューターはどうやって作り出しているのでしょうか。その主役となるのが、現代の電子工学の最高傑作とも言える「トランジスタ」という小さな部品です。

トランジスタを一言で表すなら、「電気でコントロールする超小型のスイッチ」です。

私たちが部屋の明かりをつけるとき、壁のスイッチを指でパチッと押し込みます。スイッチが入れば電気が流れて部屋が明るくなり(1の状態)、切れば電気の通り道が断たれて暗くなります(0の状態)。

コンピューターの頭脳であるICチップ(集積回路)の中には、これと全く同じ働きをするトランジスタというスイッチが、目に見えないほど小さなサイズで、それこそ数百億個という単位で詰め込まれています。

壁のスイッチと違うのは、人間の指で押すのではなく、「電気の合図によって、別の電気の通り道を瞬時に開け閉めする」という点です。ある場所に電気を流すと、スイッチが「オン(1)」になり、電気を止めると「オフ(0)」になります。

このトランジスタが開発されたことで、コンピューターは人間が指でカチカチと動かすよりも何億倍、何兆倍という圧倒的なスピードで、「0」と「1」の世界を切り替えられるようになりました。

すべてが「0」と「1」に化けるマジック

「0と1、つまり電気のオンとオフだけで、どうやって映画を見たりAIと会話したりできるのか」と不思議に思うのは当然です。その秘密は、「組み合わせの力」にあります。

たとえば、スイッチが1個だけなら「0」と「1」の2通りの状態しか表現できません。しかし、スイッチを2個並べるとどうでしょうか。

  • 「00」
  • 「01」
  • 「10」
  • 「11」

このように、4通りの状態を表現できるようになります。スイッチが3個なら8通り、4個なら16通り、10個なら1024通り……と、スイッチの数を増やしていけば、表現できるパターンの数は爆発的に増えていきます。

コンピューターの世界では、このスイッチ1個分が保持する「0か1か」の最小の情報の単位を「bit(ビット)」と呼びます。

文字を例に挙げてみましょう。コンピューターのルールブック(文字コード)では、たとえば「『01000001』という8つのスイッチの並びが来たら、画面には『A』という文字を表示する」という風に、あらかじめ厳密な割り当てが決まっています。

画像であれば、「この四角いマス目は、赤の光の強さが『11111111』で、青が……」というように、色の濃淡を数字の並び(ビット)に変換して記憶します。

私たちは今、AIが人間の言葉を理解して流暢にしゃべっているように感じていますが、そのAIが動いている足元を顕微鏡でのぞき込めば、そこにあるのは「天文学的な数のトランジスタが、猛烈な勢いで電気のオンとオフをパチパチと切り替えている姿」そのものです。

コンピューターという機械は、この極限までシンプルな「0と1の世界」を信じられない規模で積み重ねることで、私たちの知的な世界を丸ごとシミュレートしているのです。

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