4.4 それでも本質は「計算と記憶」

ビルを丸ごと一つ占領するような国家プロジェクトのスーパーコンピューターや、AI企業が巨額の資金を投じて構築する数万枚のGPUを積んだAIサーバー。それらが放つ圧倒的な存在感や、SF映画のような近未来の佇まいを目にすると、私たちは「そこには、私たちが普段使っているパソコンとは根本的に異なる、何か高次元の原理が働いているのではないか」という錯覚に陥りそうになります。

しかし、どれほどシステムの規模が巨大化し、処理するデータが天文学的な数字になろうとも、その足元で起きていることは、誕生したその日から何ひとつ変わっていません。

すべての本質は、どこまでいっても「計算」と「記憶」という二つの原理原則に集約されます。

巨大なシステムも、中身は「小さなレンガ」の集まり

巨大なスタジアムや超高層ビルを思い浮かべてみてください。それらは遠くから見れば圧倒されるほど巨大な建造物ですが、近くに寄って目を凝らせば、使われているのは小さなコンクリートのブロックや、一本一本の鉄骨、あるいは何万枚ものレンガの積み重ねです。建物が大きくなったからといって、レンガそのものが魔法の物質に変わるわけではありません。

スパコンやGPUサーバーも、これと全く同じです。

  • 「計算」の原理:AIサーバーに敷き詰められた最新のGPUの内部でも、行われているのは第1章・第3章で解説した「0」と「1」の信号を論理回路に通す「足し算」の繰り返しです。変わったのは、その足し算を同時に行うための「回路の数(並列度)」が数億倍になったという点だけです。
  • 「記憶」の原理:数テラバイト、数ペタバイトという気の遠くなるような大容量のデータを扱うストレージの内部でも、行われているのはミクロの部屋に電子を閉じ込めたり、磁気の向きを変えたりする「0と1の保持」です。変わったのは、そのデータを蓄える「部屋の数(容量)」と、それらをプロセッサへ届ける「通路の太さ(帯域)」が劇的に進化したという点だけです。

原理が変わらないからこそ、私たちはAIを理解できる

もし、AIやスパコンが本当に「これまでのコンピューターとは全く違う未知の原理」で動いているのだとしたら、私たちはその仕組みを理解することを諦め、ただブラックボックスとして拝むしかなくなってしまいます。

しかし、そうではありません。彼らの本質が「計算と記憶」というシンプルな principles(原理原則)の延長線上にあるからこそ、私たちはその構造をロジカルに紐解くことができるのです。

  • AIが「言葉のキャッチボール」を成立させているのは、巨大な記憶装置(SSDやメモリ)から引き出した過去のパターンをもとに、超並列の計算機(GPU)が「次に来る確率の最も高い言葉」を猛烈なスピードで足し算し続けているからです。
  • AIが「画像」を生成できるのは、膨大な光の三原色の数字データ(記憶)に対して、ノイズを取り除くための計算を何度も何度も繰り返しているからです。

どれほどテクノロジーが進化し、AIが人間らしく振る舞うようになっても、その裏側にあるのは「徹底的に磨き上げられた計算機」と「絶対に狂わない記憶装置」のコンビネーションです。

この「変わらない原理原則」という確かな補助線を手に入れた私たちは、いよいよ次章から、本書の本丸である「AI(人工知能)」の具体的な正体へと足を踏み入れる準備が整いました。

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