【第1章 AIの正体】 1.1 AIとは何か―定義と歴史

「AI(人工知能)」という言葉を日常的に使わない日はありませんが、「では、AIとは具体的に何ですか?」と問われると、明確に答えられる人は少ないのではないでしょうか。

一般的にAIは、「人間の知的な活動を模倣するように設計されたコンピューターシステム」と定義されます。ここで言う「知的な活動」とは、たとえば複雑な文章を読んで要約する、大量の画像から特定の物体を見つけ出す、過去のデータに基づいて未来の予測を立てる、といった行為を指します。

しかし、この定義において最も重要であり、私たちが決して見失ってはならないのは、AIは人間の知性を「模倣」しているにすぎないという点です。

AIは「知的に振る舞うように見えている」だけであって、私たち人間のように何かを主体的に思考したり、言葉の意味を深く理解したりしているわけではありません。彼らの「知性」の正体は、人間が設計した高度な枠組み(プログラム)のなかで、決められたルールや確率の計算を圧倒的なスピードで実行した結果にすぎないのです。

この「人工的な知性」を作ろうとする人間の挑戦には、意外にも長い歴史があります。

その出発点は、今から70年以上も前の1950年代にまで遡ります。イギリスの天才数学者アラン・チューリングが「機械は思考できるか?」という大胆な問いを立て、機械が人間と同等の知性を持っているかを判定する「チューリングテスト」を提案したのがすべての始まりでした。

その後、AIの歴史は大きな期待(ブーム)と、技術的限界による失望(冬の時代)を何度も繰り返しながら進化してきました。

  • 第1次ブーム(1950〜60年代): パズルやチェスなど、明確なルールがある問題を解く「推論・探索」の技術が中心でした。しかし、ルールが曖昧な現実世界の複雑な問題には太刀打ちできず、最初の冬の時代を迎えます。
  • 第2次ブーム(1980年代): コンピューターに大量の専門知識をあらかじめ教え込む「エキスパートシステム」が流行しました。しかし、人間が持つ「常識」という膨大な知識をすべて記述することの難しさに直面し、再び挫折します。
  • 第3次ブーム(2010年代〜): インターネットの普及によるビッグデータの登場と、コンピューターの処理能力の爆発的な向上により、「機械学習(マシンラーニング)」や「深層学習(ディープラーニング)」という技術が花開きました。これが現在のAIの基盤となっています。

そして現在、私たちは「生成AI(ジェネレーティブAI)」と呼ばれる、文章や画像、映像を自ら作り出す文字通りの新時代を目撃しています。

現代のAIがこれほど強力になったのは、人間がルールを一つひとつ教え込むのをやめ、「過去のデータを大量に与えることで、AI自身に統計的なパターンや特徴を自律的に発見させる」というアプローチに切り替えたからです。

しかし、技術がどれほど進化し、あたかも人間のように自律して動いているように見えたとしても、その本質は1950年代から変わっていません。AIは常に「過去の蓄積(データ)」というバックミラーを見ながら動いている道具です。データにない未来を予言することもなければ、自ら新しい価値や意味を発明することもありません。そこには意志も自我も存在せず、ただ、人間の知性を模倣するために極限まで複雑化された、精緻な計算の仕組みがあるだけなのです。

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