第2章 記憶する機械 2.1 コンピューターにおける「記憶」とは

コンピューターのもう一つの圧倒的な能力、それが「記憶(ストレージやメモリ)」です。

私たちは日常的に「スマートフォンに写真を保存する」「パソコンに書類を書き残す」といった作業を行っていますが、形のないデジタルデータが、どうやって機械の中に「形」として留まり続けることができるのでしょうか。

人間の脳であれば、神経細胞(ニューロン)のネットワークが変化することで、楽しかった思い出や勉強した知識を記憶します。しかし、金属やシリコンでできた無機質なコンピューターには、そうした生体反応は起こせません。

コンピューターにおける記憶の正体とは、一言で言えば「物理現象を情報に変える工夫」です。

「状態が維持される」という物理現象を探す

第1章で、コンピューターのあらゆる情報は「0」と「1」という2進法で表されると説明しました。つまり、コンピューターが何かを記憶するというのは、「0と1の違いを、物理的な形としてそこに残す」という行為にほかなりません。

人間が文字を覚えるとき、紙にインクを染み込ませて「文字の形」を残します。あるいは、大昔の人類のように、固い岩に傷をつけて「溝」を残すことで、情報を後世に伝えました。これらはすべて、紙の変色や岩の凹凸という「物理的な変化」を情報に変える工夫です。

コンピューターも、これと全く同じアプローチをとっています。現代の天才的な科学者や技術者たちは、地球上のさまざまな物理現象の中から、「ある操作をすると状態が変わり、その後もその状態が安定して維持されるもの」を血眼になって探しました。

その結果、見出されたのが次のようなアプローチです。

  • 電気の力:ミクロの部屋に電気(電子)を閉じ込める、あるいは充電する。
  • 磁気の力:物質の磁石の向き(N極とS極)をひっくり返す。
  • 光の力:レーザーを使って、表面に微細な凹凸(穴)を掘る。

これらはすべて、アプローチこそ違えど、「状態 A ならば 0」「状態 B ならば 1」というルールを物理的に固定化するための技術です。

デジタルだから「劣化しない」

物理現象を情報に変えることの最大の強みは、それが「デジタル(0か1か)」である点にあります。

もし、コンピューターが「0から100までのアイマイな電気の強さ」で記憶しようとしたらどうなるでしょうか。時間が経って電気が少しでも漏れて「80」が「79」になってしまったら、その瞬間にデータは壊れて(劣化して)しまいます。古いカセットテープやビデオテープの映像がザラザラと劣化していくのは、このアイマイな状態(アナログ)で記録していたからです。

しかし、デジタルは違います。「電気が一定以上溜まっていれば1、空っぽなら0」という極端なルールにすれば、多少の電気が漏れたところで、「1」は「1」のまま変わりません。

コンピューターの記憶装置とは、電子、磁気、光といった自然界の物理現象を巧みにコントロールし、この「絶対に揺るぎない0と1の壁」をミクロな世界に作り出す、人類の知恵の結晶なのです。

これから詳しく見ていくRAMやSSD、HDDといった装置は、すべてこの「物理現象をどう利用するか」の違いにすぎません。

 の目次へ