3. ブラックボックスを解き明かす

現代のAI、特に「生成AI」と呼ばれる技術は、私たちの目には完全な「ブラックボックス(中身が見えない魔法の箱)」のように映ります。

スマホやパソコンに向かって「明日の天気に合わせたコーディネートを考えて」と入力すれば、瞬時に完璧な提案が返ってきます。しかし、その箱の内部で何が起きているのか、なぜそんな気の利いた回答ができるのかは、専門家でなければ想像すらつきません。

この「中身が分からないけれど、とにかくすごい」という状態は、時に私たちに過大な期待を抱かせ、時に「AIに仕事が奪われる」「AIが人類を支配するのではないか」という過度な恐怖を生み出します。

なぜ、私たちはAIを不気味なブラックボックスだと感じてしまうのでしょうか。

それは、AIという建物の「最上階」だけを見て、それを支えている「1階部分(コンピューターの仕組み)」を知らないからです。

基礎を知らないまま最上階のAIだけを語ろうとすることは、スマートフォンの仕組みを知らない人が「スマホの中には小さな妖精が住んでいて、手紙を運んでくれているんだ」と信じるようなものです。それでは、AIの本当の強みも、同時にAIが抱える致命的な弱点(もっともらしい嘘をつく「ハルシネーション」など)の理由も、本当の意味で理解することはできません。

AIのブラックボックスを解き明かす鍵は、最上階の複雑な数式にあるのではなく、1階部分のシンプルな仕組み――すなわち、コンピューターがどのように電気を操り、どのように記憶を保持しているのか――にあります。

  • AIが大量のデータを処理できるのは、コンピューターが0と1のスイッチを物理的に並列化し、高速化してきた歴史があるからです。
  • AIが言葉を扱えるように見えるのは、コンピューターがあらゆる文字や概念を「数字の羅列」に変換して記憶する仕組みを持っているからです。

「コンピューターを知らずしてAIの本質は語れない」というのは、決して誇張ではありません。

本書では、このブラックボックスの底にある「1階部分」から順番に、丁寧にネジを外して中身を覗いていきます。一見難しそうに思えるかもしれませんが、使われている部品やルールは驚くほどシンプルです。

その基本の積み重ねが、どのようにして「人間の知能のようなもの」へと化けるのか。その驚くべきメカニズムを、これから一緒に解き明かしていきましょう。

 の目次へ